理事長挨拶
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ご挨拶
日本微量元素学会第12期の理事長を拝命いたしました吉田宗弘(関西大学化学生命工学部食品栄養化学研究室)でございます。新型コロナウイルス感染症によって低下した様々な社会活動もようやく回復しつつあり、本会も微量元素研究者間の交流の場として、以前に増して活動していきたいと思っております。
1989年に第2回国際微量元素学会(International Society for Trace Element Researh in Humans: ISTERH)が、東京において、日本大学の冨田寛先生を会頭として開催されました。当時、国内において、微量元素をテーマとしている研究者が参画している集いとして、微量金属代謝研究会(冨田寛先生ら)、微量元素研究会(土屋健三郎、野見山一生、木村修一先生ら)、輸液微量栄養素研究会(岡田正、高木洋治先生ら)、微量栄養素研究会(山口賢次、川島良治、糸川嘉則、左右田健次先生ら)の4つの研究会が存在していました。ISTERHの日本開催にあたっては、この4つの研究会が分野の壁を越えて協力されました。これを機会として、日本にも微量元素に関する統一的な学会を創設しようという気運が高まり、1990年に微量栄養素研究会を除く3つの研究会が合同する形式で本会が発足しました。微量栄養素研究会は、ビタミンなど、微量元素以外の研究者も多数加わっていたことから、合同には至らず、協力するという形式になったと聞いております。以来、本会は、途中、学会事務センターの破産に伴う資金不足など、様々な困難に直面しましたが、歴代理事長らのご尽力と会員の皆様のご援助もあり、現在は一般社団法人として、飛躍しつつあります。
わが国は、水俣病やイタイイタイ病といった微量元素による健康被害を体験しました。この不幸な体験を克服するために多くの研究者が微量元素研究に取り組んだこともあり、きわめてレベルの高い報告がなされてきました。私は、1975年に卒業研究のテーマとして「セレンの栄養学的研究」を選択したこともあり、先達による微量元素に関する様々な報告にふれてきました。大学院生の頃には、栄養以外の分野の学会にも積極的に参加し、「水銀とセレン」、「金属間相互作用」、「メタロチオネイン」などに関する発表を聞かせていただきました。私は微量栄養素研究会に参加していましたが。1990年の本会の発足と同時に会員となり、毎年行われる大会においては継続的に発表してまいりました。
理事長就任に際し、第11期理事長の小椋康光先生が掲げられた3つのスローガン「国際化の推進」、「多様性の確保」、「若手研究の活性化」をそのまま継承し、私自らが先頭に立ち、運営に責任を果たしたいと思っております。
「国際化の推進」については、第11期から国際英文誌である「Metallomics Research」が刊行されています。まず、この英文誌の質を高め、真の国際誌に発展させたく思います。会員の皆様には「Metallomics Research」への投稿を強くお願いしたいと思います。
「多様性の確保」について、本会はその発足時の経緯から、臨床と基礎の研究者が集っていました。また、会員の所属学部も、医学部、理学部、薬学部、農学部、工学部、生活科学部など多様でした。微量元素は、栄養水準、保健水準、薬理水準、毒性水準というように、投与・曝露量の変化に伴い、生体に生じる影響は変化します。微量元素研究には、定性的ではなく定量的なアプローチが求められる所以です。したがって、微量元素研究においては、分析がきわめて重要となります。さらに、微量元素を扱うには、多様な研究手法を理解し、実践することも重要です。日本の多くの学会が、研究手法を同じくする研究者が集っていることが多いことを考えると、本会における研究分野の「多様性の確保」は特筆すべきものであり、本会の生命線ともいえるものです。
少子高齢化、大学教員数の減少にともなう博士課程修了者の就職難などもあり、日本の学会の多くは若手研究者の減少に伴う高齢化に悩みつつあります。「若手研究者の活性化」は本会にとっても大きな課題です。残念なことに、多くの会員にとって、本会は第一の学会ではなく、二番手あるいは三番手の位置付けになっているものと思います。しかし、微量元素というキーワードで、多彩な人材が、若手からベテランに至るまで、とことん議論できるのが本会の魅力です。本会が存在しない場合、若手の方は、微量元素に関する発表を求めて、かつての私がしていたように、様々な学会の催しに参加しなければならないでしょう。このような本会の魅力を発信することは、理事長に課せられた大きな使命と思います。
私は2023年11月には70歳となり、2024年3月には現在の職場を辞することになっております。半世紀近く微量元素に関わってきた私にとって本会の理事長を務めることは、この上もなく光栄なことであり、我が国の微量元素研究に対する最後のご奉公であると思っております。会員の皆様方の益々のご指導・ご協力をお願い致しまして、就任のあいさつとさせていただきます。
令和5年8月1日
第12代日本微量元素学会理事長
吉田 宗弘